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高次脳機能障害の失語症での診断書の出し方
Q:高次脳機能障害の失語症があるので、精神の診断書とともに言語の診断書も出すように言われました。どうすればいいでしょうか?
A:高次脳機能障害の失語症について、精神診断書から除かれ、精神の注意書きに失語症については言語障害診断書を提出せよと書かれました。 なので、請求窓口では、失語症がある場合には、精神診断書とともに言語診断書を出すように言われると思います。
2013年6月改正の障害年金認定基準では精神と言語は併合認定されるとされましたが、現行の言語障害基準ではそもそも言葉が出てこなかったりするというコミュニケーション能力の障害については障害認定対象とはなっていません。言語障害の認定基準では、発音障害があることが会話状態(言語障害診断書での「イ」)での認定の条件となっているのです。
2012年9月に肢体の診断書の改訂前までは、会話状態の判定欄があって、脳血管障害等肢体障害を伴う場合には会話状態だけで言語障害が認定されていた実態があります。しかし、それでは認定基準が守られていないということで、会話能力の判定欄を肢体診断書から外しました(高次脳機能障害専門家会合第2回記事録p.9)。
わずかに2級については、高次脳機能障害の認定基準改正に向けた専門家会合で、会話能力も障害認定の対象とされていると事務方から会合でも説明がありました(高次脳機能障害専門家会合第3回記事録p.3)。しかし、もう一度、言語障害の認定基準を読んでみると、その規定すら「音声又は言語を喪失するか、又は音声若しくは言語機能障害のため意思を伝達するために身ぶりや書字等の補助動作を必要とするもの」というものであって、「音声又は言語を喪失するか、又は音声若しくは言語機能障害のため」という原因の限定されたものであり、適切な言葉が出てこないことによる会話能力の障害で「意思を伝達するために身ぶりや書字等の補助動作を必要とするもの」ではありません。 失語症にも、有意な発話が困難な全失語から、流暢に話すが内容が空疎というウェルニッケ失語など様々なタイプがありますが、わずかに全失語の場合に「言語喪失」に当たる可能性がある程度だと考えられます。
そうすると、脳の障害から来る中枢性の失語症は現行の言語障害基準ではほとんど認定されないことになります。認定されない障害をわざわざ費用をかけて診断書を書いてもらえとはどういうことなのでしょうか。しかも、原則、精神診断書注意書きこう書かれると精神診断書にも失語症については書けません。2013年6月からは、このままでは失語症は障害年金の対象として認定されないことになってしまいます。
中枢性の失語症を含めるよう、言語障害の認定基準改正が必要なことは、専門家会合議事録を読むと、ここに出席した医師はもちろん事務官も含めた共通認識となっています。ならば、今回の精神の改正は言語障害基準とのセットでなければならなかったのです。せめて待ったなしで、言語障害基準の改正作業に入らなければなりません。
失語症が言語認定基準で認定されるようになるまでどうすればいいか
そうはいっても、言語認定基準改正はまだタイムテーブルにも上がってきていません。それまではどうすればいいでしょうか。
【1】精神診断書を失語症での日常生活能力低下も含めた形で作成してもらう。
- 日常生活能力については、失語も含めた判定をしてもらうこと
- 失語の失読、失書等については、「学習障害」の「読む」、「書く」、「計算する」で判定してもらうこと
- 失語と合併することが多いと言われる失行がある場合にはチェックしてもらう
【2】精神診断書とともに積極的に言語診断書を出すことをお勧めします。
理由は以下です。
- 国が請求者に費用を負担させて言語診断書を出させる以上、従来のように会話能力の判定だけでも、言語障害として認定する可能性はゼロではないと考えます。
- また、国は認定基準の不備を放置しつつ、費用を負担させて診断書をださせる以上、会話能力判定によってだけでも、失語症について言語障害と認定する義務があると考えます。
- もし、認めない場合は、審査請求を行うことをお勧めします。認定基準に記されていない障害について、不服申立を行い、容認裁決が続いたことで認定基準が改正されたことがあります。視野障害やポストポリオなどです。
- そして、そのことが失語症を言語障害で認定できるようにするための認定基準改正を早めることになると思います。
2013.6の高次脳機能障害などの認定基準改正については、可能なら、↓の拙稿もみてください。
「高次脳機能障害等に関する障害年金認定基準改正と年金相談実務」 …日本法令『別冊ビジネスガイド第5号 年金相談』2013.9.5
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